空・殻・核 (くうからかく)

クロノスとカイロスの狭間を転がる

8.二項展開とパスカルの三角形

あなたとわたしの間に成り立つ関係性というものを、何らかの形式に則って表現してみたいと思う。と言ってもさほど難しいことではない。まずは、単純にあなたを「a」、わたしを「b」と書いて、その間に「+」という記号を入れて結ぶ。そうすると、あなたとわたしの最も単純な結びは、

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二項和

と書ける。これは「二項和」(二項の和)と呼ばれる。しかし、実際には、あなたとわたしの結びというものは、何重にも階層づけられ関係させていると考えると、これもまた最も単純には、

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二項和の積

のように、二項和をn個掛け合わせる形で表せると考える。このように何個掛け合わせるかをいちいち書いていたのでは面倒なので、これを

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二項和のn乗

のように、縮めた形式で書くことにする。これは「二項和のn乗」と呼ばれる。この二項和のn乗のnに実際に、

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0と自然数

という数を放り込んで書いてやる。次のように書ける。

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二項和の累乗

ここで、0回の積というものは、何も二項和を掛け合わせないので、この場合は、「1」と取り決めておくことにする(これは単なる取り決めなので、難しく考えないでいいが、積の単位元が「1」であることに由来している)。とにかく、このように、あなた「a」とわたし「b」は「n」階層で関係し合うと考えるわけだ。括弧を付けたままだと見栄えは美しいかもしれないが、中身がどうなっているのか見えにくいので、これらを展開してやる。実際に計算してやると、途中の計算式を省けば、次のようになる。

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二項和の累乗の展開

この二項和の積のn乗の展開を「二項展開」と呼ぶ。ここに登場する各項の係数を「二項展開係数」略して「二項係数」と呼ぶ。例えば、5行目の二項和a+bの4乗の場合、1番目の項の係数は「1」、2番目の項の係数は「4」、3番目の項の係数は「6」、4番目の項の係数は「4」、5番目の項の係数は「1」である。順に、二項係数だけ取り出してやれば、次のようになる。

 

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二項係数

 何だか規則性のようなものが見えてくる。1段目から2段目への移行は、1から両脇にそのまま1を降ろしている。2段目から3段目への移行は、両端の1はそのまま降ろすが、真ん中は隣り合う1を足して1+1=2と足し合わせて降ろす。同様に、3段目から4段目への移行は、両端の1はそのまま降ろすが、中間隣り合った数同士だけを足して、それぞれ、1+2=3,2+1=3として降ろす。この形式を繰り返すと、上から下に向かって、数の三角形ができていく。この数の三角形は「パスカルの三角形」と呼ばれる。

 

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パスカルの三角形

 

a+bのn乗を展開した各項は、

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二項和のn乗

という元の式を見ればわかるように、

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(a,b)対n個

というaとbの対(a,b)n個の中からa, bのどちらかを必ず選んで積を作ることになるから、各項は、

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二項展開の各項の形

という形でできていて、aとbの総和j+k=nとなる(つまり、j=n-k)。すなわち、二項展開した各項は、n個からk個(k=0,1,2,…,n)取る組合せになり、その係数は、n個からk個(k=0,1,2,…,n)取る組合せの数になる。した

 

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二項展開の各項

となる。例えば、(a+b)の4乗を展開した各項だと、各項は

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(a+b)の4乗の展開の各項

となって、その係数は、

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(a+b)の4乗の各項の係数

となる。

 

ちなみに、前述したパスカルの三角形だが、パスカルの三角形は、a+bのn乗(n個の積)の展開係数でできているわけだから、パスカルの三角形の(n+1)段目は、左から(k+1)番目の数が、n個からk個(k=0,1,2,…,n)とる組合せの数になっている。

 

ちょっとやや数学的な説明になってしまったので、もう少し視覚的なイメージで捉えてみよう。例えば、(a+b)の4乗を展開すれば、各項は

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(a+b)の4乗の展開の各項

となる。あなたが「a」でわたしが「b」だとして、一番左の項が「一番あなたである位置」であり、逆に、一番右の項が「一番わたしである位置」だとしたら、「一番あなたである位置」から、右に向かうほど、次第にあなたである次元が薄まっていって、反対に、徐々にわたしである次元が濃くなっていって、ついに「一番わたしである位置」へとたどり着くという感じだ。一方、左に向かうほど、次第にわたしである次元が薄まっていって、反対に、徐々にあなたである次元が濃くなっていって、ついに「一番あなたである位置」へとたどり着くという感じだ。

 

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a,bそれぞれの次元の薄まり方

「一番あなたである位置」である位置が「彼岸」であり、「一番わたしである位置」が「此岸」だとすれば、まさしく「彼岸」から「此岸」へと何かが渡ってくるという感じだ。そして、この彼岸から此岸へ渡ってくる風のような観察者の視線こそ「意識」のある種の表現だとは言えないだろうか。この辺りについては、別途もう少し考えてみたい。