9.ソ・ラを超えて
♪ドはドーナツのド、レはレモンのレ、ミはみんなのミ♪
「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ」の音階と言えば、ミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』および同名映画に登場した「ド・レ・ミの歌」が思い浮かぶが、音階の由来は、11世紀に遡るそうだ。
カトリック教会の修道会ベネディクト会の修道士でイタリアのアレッツォに住んでいたグイード・ダレッツォは、1025年か1026年、34歳のときに、アドリア海沿岸、フェラーラにほど近いポンポーザ修道院に所属していたときに、『アンティフォナリウム序説』というどんな楽曲を表記する場合にも標準的に使える楽譜記譜法を説明した音楽教師向けの実践的なテキストを著した。
元々8世紀にパウルス・ディアコヌスが作ったとされる、ラテン語の『聖ヨハネ賛歌』は、以下の通り。
Ut queant laxis (あなたの僕(しもべ)が)
Resonare fibris (声をあげて)
Mira gestorum (あなたの行いの奇跡を)
Famuli tuorum (響かせることができるように)
Solve pollut (私たちのけがれた唇から)
Labii reatum (罪を拭い去ってください)
Sancte Iohannes (聖ヨハネ様)
この第1節から第6節まで最初の音がそれぞれ「C-D-E-F-G-A」の音になっており、グイード・ダレッツォは、この歌詞の最初の文字を用いて、「Ut-Re-Mi-Fa-Sol-La」という音階を発明したと言われる。音階は7個あるため、のちに第7節の2つの語の頭文字をとって「SI」が付け加えられた。また、「Ut」は発音しにくいため、のちに「主」を示すDominusの「Do」に変更された。
Ut→Do(C:ド)
Re (D:レ)
Mi (E:ミ)
Fa (F:ファ)
Sol (G:ソ)
La (A:ラ)
SI (B:シ)
初期ルネサンスまでの西洋音楽の標準的な音律だったピタゴラス音律では、音階の全ての音と音程を周波数比3:2の純正な完全五度の連続から導出する音律だ。ピタゴラスは、モノコード(一弦琴)を用いて、弦の長さと音の高さを調べ、まず、弦の長さを半分にすると、同じ音程で高さの異なる音が出ることを発見した。これが「オクターブ」である。実際、1:1に内分する位置で弦を弾くと、オクターブ異なるドの音階になる。元の弦の長さ1と、オクターブ異なる弦の長さである1/2に対して調和平均を求める。調和平均Hは、数a,bがあるとき、それぞれの逆数の和を2で割ったものの逆数をとること、つまり、
によって求められるから、この場合は、H=2/3となる。つまり、2:1に内分する位置で弦を弾くと、これが「ソ」の音階になる。
さて、1から始めて、この調和平均2/3を順に掛けていって次々に音階を作っていくわけだが、弦の長さが1/2と1の間にあるときはそのままでよいが、その範囲を超えたときには、値を2倍して1/2から1の間に収まるように調整した。すなわち、
最後のこの値は0.74に近似し、ファの音を奏でる弦の比3/4=0.75とはずれがある。この3/4は、弦の長さ1と弦の長さ1/2の単純な相加平均Aで求まる。
当然、最終的に1オクターブ上のドが綺麗に1/2にならずにずれが出る。このずれがピタゴラス・コンマと呼ばれる差異である。なお、波長は弦の長さに比例し、振動数(周波数)はその逆数になる。これをまとめると、以下の通りである。
Do (C:ド……1) 振動数:1
Re (D:レ……8/9) 振動数:9/8=1.125
Mi (E:ミ……64/81) 振動数:81/64=1.265625
Fa (F:ファ…3/4) 振動数:4/3=1.333…
Sol (G:ソ……2/3) 振動数:3/2=1.5
La (A:ラ……16/27) 振動数:27/16=1.6875
Si (B:シ……128/243)振動数:243/128=1.8984375
すると、宇宙の歴史において、私たちの太陽系誕生以前の歴史と誕生以後の歴史の比はちょうど2:1であり、宇宙の歴史全体と私たちの太陽系誕生以前の歴史の比は3:2となるので、これを音階にすれば「ソ」(Sol)になる。奇しくも「太陽」はラテン語で「Sol」である。そう言えば、前述の「ド」から最初の調和平均で作られたピタゴラス音階は「ソ」であった。そして、順に作られていって、最後に作られる音階に近似するのが、弦を3:1に内分する位置で弦を弾いてできる「ファ」の音階であった。
定在波と倍音の数値化(砂生記宜・藤原肇『宇宙波動と超意識』より)