空・殻・核 (くうからかく)

クロノスとカイロスの狭間を転がる

18.四元素説から始まる四値についての試論

少し数学拠りの話題ばかりが続いたので、この辺で必ずしもそればかりじゃない話題についても触れておこう。

 

私たちは、四次元時空といった物理などの学問分野でなくても、ふだんから、四季(春夏秋冬)を味わうだとか四方(東西南北)を意識するだとか。あるいは、四コマ漫画だとか四字熟語だとか文章の起承転結だとか世界の四大文明だとか、日常的に事あるごとに四値というものに出くわす。ひょっとしたら、私たち人間にとっては、何かを認識するときには、この四値的な認識のスタイルの方が記憶に馴染んだりするものがあるのかもしれない。

 

そこで、私自身がちょっと気になる四値的なものを、ここでは取り上げてみることにする。

 

まずは古代から支持されてきた「四元素説」というものを取り上げる。

 

四元素とは、この世界の物質は、火・空気(もしくは風)・水・土という四つの元素から構成されるとする概念であり、古代ギリシア・ローマ、イスラーム世界、および18~19世紀頃までのヨーロッパで支持され、古代インドにも同様の考え方が見られた。

 

古代ギリシアの自然哲学者エンペドクレス(B.C.490年~B.C.430年頃)は、この世界の万物の根源(アルケー)は「火」「空気」(風)「水」「土」(地)という4つの根(リゾーマタ)から構成され、それらを結合する「愛」(ピリア)と分離させる「憎」(ネイコス)により集合離散するとする説を唱えた。

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図18-1 四元素説

この古代における「この世界が何で出来ているか」という観点自体は、現在では、科学的には素粒子物理学が踏襲していると言えるが、この世界を構成するものは、物質粒子(フェルミオン)と力の媒介粒子(ボソン)という2種類の量子があって、大きくは、前者は電荷的にはuクォークなどの正電荷クォーク、dクォークなどの負電荷クォーク、電子などの負電荷レプトン、電子ニュートリノなどの電荷ゼロのレプトンの四種類があり、後者は、光子(フォトン)、ウィークボソングルーオン重力子(グラビトン)という四つの力を媒介する粒子が存在している、と言えば、物質粒子と力の媒介粒子に分かれたものの、いまだ四元素説の香りは残しているとも言えるのではないだろうか。

 

次に、「三平方の定理」で有名な古代ギリシアの賢人ピュタゴラス(B.C.582~B.C496年)であるが、彼は「万物は数である」と唱え、一種の宗教結社の色彩も帯びた「ピュタゴラス教団」というものを結成した。その中で、彼は、数学的学問を、数か量か、静止か運動かという区分によって、数論・音階論・幾何学天文学の四つの分野に分類し、ピュタゴラスの「四科」(クワァドリヴィウム)と呼ばれた。このことはプロクロスの『註釈』に書かれている。そもそも「数学」の英単語である「マセマティクス」の語源は古代ギリシア語の「マテーマタ」にあると言われ、「学ぶ」を意味する動詞から派生した「マテーマ」という単語の複数形であり、「学ばれるべきもの」を意味していた。ピュタゴラスは、このマテーマに、四つの区分を施したのである。当時は学問的なものが上位に位置付けられ、これら四つの学問的分野は、計算術・大衆音楽・測量術・航海術という実用的な技術よりも上位の階層に置かれた。

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図18-2 古代ギリシアの「ピュタゴラス学派の四科」(クワァドリヴィウム)

ところで、昔、キトラ古墳で発見された天井壁画の天文図には、「四神」と呼ばれる中国由来の四種類の幻獣が描かれている。つまり、四方位には、東の青龍、南の朱雀、西の白虎、北の玄武が配置されている。

 

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図18-3 天文図を囲む四神

                              (https://trippiece.com/plans/17984/view/ より)

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図18-4 四神

                  (http://kodaikyou.blogspot.com/2018/03/blog-post_8.html より)

この四神として登場する青龍・白虎・朱雀・玄武に冠している「青」「白」「赤」(=朱)「黒」(=玄)の四色だが、面白いことに、日本語において、「い」を付けるだけでそのまま形容詞となる色になっていて、これ以外に、単に「い」を付けるだけでそのまま形容詞となるような色はない(例えば、「黄色い」などは「黄い」とは言わない)。この「青」「白」「赤」「黒」の四色は、日本語の起源においても古いと言われ、「白」は「濃」、「青」は「淡」で濃淡を表しており、「赤」は「明」、「黒」は「暗」で明暗を表していると言われ、うまい具合に、西から東の方向に濃淡、南から北の方向に明暗を表して、まるで光(もしくは色)のグラデーションを表現しているとも思える。

 

さて、もう一つ、日本人に馴染みの四値と言えば、よく性格判断だとか占いに登場するO型、A型、B型、AB型というABO式血液型である。ヒトの場合、型を決定する対立遺伝子にはA、B、Oの3種、遺伝子型にはAA、BB、AB、AO、BO、OOの6種があるが、AA・AOがA型、BB・BOがB型、ABがAB型、OOがO型となる。世界の人種別・民族別の血液型の割合としては、大体、O型:45%、A型:40%、B型:11%、AB型:4%ぐらいだと言われる。これらO型、A型、B型、AB型の血液型の人種的・民族的な起源は、次のように言われている。

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図18-5 世界の血液型の割合

                                      (https://uranaru.jp/topic/1004729 より)

 

(1)O型…紀元前40,000年頃、アフリカに出現した狩猟民族。主食が肉。

    消化酵素が強く、消化器官が短い。体には肉類が合い、穀類や野菜が

    合わない。免疫力が一番強い。

 (2)A型…紀元前25,000年~15,000年頃、アジアに出現した農耕民族。

    主食が米・小麦などの穀物。消化酵素が弱く、消化器官が長い。

    体には穀類や野菜が合い、肉類が合わない。免疫力は3番目に強い。

(3)B型…紀元前15,000年頃、ヒマラヤに出現した牧畜民族。

    主食がチーズやハムなどの保存食。雑食。免疫力は2番目に強い。

(4)AB型…2,000年前頃、ヨーロッパの都市部で出現した農耕民族と牧畜民族の

     混血種。穀物も保存食も食べる雑食。免疫力が一番弱い。

 

(参考サイト:A型、B型、O型、AB型の歴史と、それぞれの血液型の特徴

(http://daresore.hatenablog.jp/entry/2017/11/29/A%E5%9E%8B%E3%80%81B%E5%9E%8B%E3%80%81O%E5%9E%8B%E3%80%81AB%E5%9E%8B%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2%E3%81%A8%E3%80%81%E3%81%9D%E3%82%8C%E3%81%9E%E3%82%8C%E3%81%AE%E8%A1%80%E6%B6%B2%E5%9E%8B%E3%81%AE))

 

このように、四値的なものは挙げればキリがないほど、いろんなジャンルのいろんなものがある。他にも、すぐに思いつくものを挙げれば、例えば、有機物を構成する元素と言えば、水素(H)、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)の4種類だし、DNAを構成する核酸塩基と言えば、アデニン(A)、グアニン(G)、チミン(T)、シトシン(C)という4種類だし、数学においては複素数の拡張版とも言える「四元数」(あるいは「ハミルトン数」)というものもある。