空・殻・核 (くうからかく)

クロノスとカイロスの狭間を転がる

16.円周率

「比」と聞いて、最もポピュラーなものは「円周率」ではないだろうか。円周率とは、円の直径の長さに対する円周の長さの割合のことで、要するに、(円の直径の長さ)÷(円周の長さ)の値のことである。これは円の大きさに依らず一定の値を取る。円周率は、記号としてはギリシア文字の「π」で表し、私たちがよく馴染んでいる1次方程式や2次方程式といった代数方程式の解にはならない無理数であり、そのような数は「超越数」と呼ばれる。したがって、円周率πは、循環しない小数で表されるが、学校でもよく用いられる近似値は、小数第2位までの値で3.14である。

 

さて、先日3月にこんなニュースが流れた。ニュースの記事を引用させて頂く。

 

@niftyニュース】Googleでエンジニアとして働く岩尾エマはるかさんが円周率計算のギネス世界記録樹立

 

Googleでエンジニアとして働く岩尾エマはるかさんが、3.14で始まる円周率を小数点以下約31兆4159億2653万5897桁まで計算し、3月14日にギネス世界記録として認定されました。これは、3月14日の円周率の日に合わせて、Googleクラウド・インフラストラクチャの力を証明しようと挑戦した結果となります。

 

円周率の世界記録を出しました! 31兆桁です!

(2019年03月22日 13時30分 ガジェット通信)

(https://news.nifty.com/topics/12259/190322326527/ より)

 

円周率の近似値として、古くから伝えられている分数形式ものとしては、22/7と355/133が有名で、前者は3.1428…で、小数第2位まで、後者は3.14159292…で、小数第4位までが正しい。

 

このような円周率の近似値計算は、古代バビロニアの時代から円に内接・外接する多角形に基づく近似という幾何学的手法によって行われ、14世紀のインドや15世紀のペルシャ辺りを皮切りに、級数展開を利用した近似という解析学的な手法が用いられるようになり始めた。20世紀後半になると、いよいよ近似計算は、個人のレベルではなく、計算機による計算のレベルになってきており、1989年には5億桁前後から10億桁前後のレベルになり、1997年には500億桁以上、1999年には2000億桁以上となり、21世紀に入ると、1兆桁を超えて、ついに、今年平成31年の「円周率の日」である3月14日には、実に、31兆4159億以上という、円周率の10兆倍にも届く桁数の近似値をはじき出すことに成功した。既に、円周率の近似計算にロマンを感じた時代はもはや完全に終焉したと言える。

 

ここで円周率を具体的に小数点以下39桁まで表示すると、

π=3.141592653589793238462643383279502884197…

となる。円周率の有名な覚え方としては、小数点以下20桁までなら、「身一つ世一つ生くに無意味違約無く身文や読む」(みひとつよひとついくにむいみいやくなくみふみやよむ)、小数点以下39桁までなら、「産医師異国に向う産後厄無く産婦御社に虫散々闇に鳴く後礼には早よ行くな」(さんいしいこくにむこうさんごやくなくさんぷみやしろにむしさんざんやみになくごれいにははよいくな)といったものがある。

 

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図16-1 円周率

ところで、今年の4月30日にはいよいよ「平成」という元号が終わる。平成最後の年は「31」年。「31」はうまい具合に、円周率πを3乗した値、つまり、πを3回掛けた値にかなり近似する。このπの3乗という値は、直径1の円を直線上に転がしたときの1周分を一辺とする立方体の体積になる。またこの「31」という数は、日本人に比較的身近なところでは、五七五七七の句をなす「短歌」の文字数でもある。そう言えば、平成の次の元号である「令和」の典拠は、万葉集巻五の「梅花歌三十二首」の序文であったが、この「梅花歌三十二首」の「32」は「31」に+1した数というわけで、平成の年数「31」の後に来るということをうまく引き受けているのかもしれない。